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2012年9月30日 (日)

「どちらかが彼女を殺した」

★★★★★。
 これはおもしろいパズル。いつも指摘するこの作者の文章のまずさが目だたない。ストーリーは単純だが、徹底的に犯人はどちらか、あるいは自殺か、というパズルに徹しているのがうまい。
 動機がどうだとかアリバイトリックがどうだとか、そういうのもあるけど枝葉末節。重要なのは薬袋の破き方の方向性ただひとつ、というわかりやすさ。ほんとにそれだけで犯人を特定して公判を維持できるのか、という気はするけれど、よくよく読むとなかなかうまくできている。
 薬袋でも封筒でもなんでもいいのだが、右利きの人は左手で全体を持って、右手で破る部分を持ってひねる、という動作をする。左利きの人はその逆なので、切り口がキラルになるので見分けがつく、というのが基本。封筒はともかく薬袋のような表裏のないものは、切り口がメソ体になると区別がつかなくなるので、破りはじめの端と破り終わりの端の区別がつく、というのが前提になる。指紋があれば簡単だけどそうでなくても紙のカールしぐあいとか破れ目の観察でわかるということになっている。
 ただし、ひとつ問題があって、右利き(左利き)の人でもいろいろな動作すべてがそうなのではなくて、その動作によっては違う動きをすることはよくあることだ。この物語でも被害者の女性は左利きだけど箸やペンは右手で持つというように。作中で加賀が被害者の兄の康正に封筒のつもりで名刺を破らせるシーンがある。その時に右利きのノーマルな破き方は、左手で名刺を持って右手で端を持ち時計方向にひねる、と書かれている。え!ぼくは右利きだけど逆だ。ぼくなら左手に全体を持って右手を添えてそれを親指方向すなわち反時計方向にひねる。この動作を表裏裏返せば、左利きの人と同じ動きということになる。むろん破る始端と終端を区別できれば、全体の鏡像である左利きの動作とは区別できるのではあるが。というわけで一概に右利き左利きでは区別できない不確実性が残るのだ。
 そこのところが作中ではきちんと回避されているのがうまいところ。どうやってかというのは読んでもらわないとならないけれど、パズルとしてこれはなかなかの出来だと思う。最後に犯人を明かさないで終わるというのも心憎い。感心感心。

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 今日のランニング。11.5 km/79 min。今月の累計距離 166.0 km。

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