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2012年12月25日 (火)

「春にして君を離れ」

★★★★☆。
 アガサ・クリスティを読むのは何年振りだろう。早川書房のクリスティ文庫81か、そんなシリーズあるんだ。それにしても81冊目とはすごい。多作だけどすべて水準作で駄作がないのがクリスティ。どれをとっても安心して読める。作品数が多いので何を読んで何をまだ読んでないのかわからなくなるのが難点だ。ぼくは中学時代に「アクロイド殺し」を読んで驚倒したのが最初で、それから脈絡なくあれこれ読み散らかしているので読了と未読がさだかではない。
 さすがにこのタイトルは記憶になかったので手に取った。そしてびっくり。これはミステリではなく心理小説ではないか。それも最上級の。この人の芸域の広さにはまったく感服する。結婚して3人の子供を立派に育て上げた自信満々の女性が、娘の嫁ぎ先のバグダッドから陸路イギリスに帰る途中のトルコ国境で天候不順により足止めされ、所在なく滞在所でひとりの時間を過ごすうちに、あれこれと考えごとを始める。作品のほとんどがその一人称回想シーンだ。記憶をたどるにつれふと心に兆す疑念。疑心暗鬼とはよくいったもので、自分の立居振舞が間違っていたのではとどんどん不安になる。
 もちろん考えても結論は出ない。無事開通した列車に揺られて夫の待つ家に帰りついたときには、もう元の自分にもどっている。ちょっとした種明かしが末尾にされていて作品は閉じられる。さて、本書の値打ちはさらにその先にある。あの栗本薫が解説を書いているのだ。たった4頁の解説が本文にもまして深い。う~むとうならされること請け合い。女はこわい、いつもそればっかりやな(笑)。

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